死んだ父の夢をみた。
父は末期の食道がんが発覚して手術し、3 年生きて、肝臓に転移したがんで死んだ。
死ぬ半年ぐらい前に抗がん剤治療もやめた。ひどい副作用を目の当たりにしていたしがんの縮退もみられなかったので、誰もとめなかった。外出する元気があるうちは釣りなどにでかけ、肝機能が落ちて動けなくなってくると、自宅のリビングのソファで本などを読みながら一日をすごした。
死ぬ直前の 2 ヶ月ほどの間、会うたびに肌が黄色くなっていったのをおぼえている。誰の目からも確実に悪くなっているのがわかって、俺も母も妹も、なかば強制的に心の準備をさせられていたと思う。父が死んだときに、誰も泣き崩れ自分を失ったりはしなかった。多少は泣いていた。
父が死んだ日の前日の朝、父の様子がおかしいと母から電話がはいった。早朝物音がするのでみてみると、湯が沸ききっていない風呂に父が入っていたらしい。1 月で水風呂には少し早い。実家に向かうと、父はいつも通りソファに横になっていた。いつも以上にしんどそうだったが、それ以外に異常は感じられなかった。
肝障害に伴う症状は調べてあった。錯乱、意識障害が起こるらしいということは知っていたので母にそれを伝えた。母は父に入院をうながしていたが、父は拒否した。受け答えはまだはっきりしていた。おれは仕事に行くために家に戻った。
翌日の朝、また母から電話がはいった。口調に余裕がない。父が早朝に車ででかけ、妹に頼まれたと言って遠くのコンビニで新聞を買ってきたらしい。コンビニなら少し歩いたところにもある。それに妹は実家を出て彼氏と住んでおり、既に働いているのでそのような頼みごとをするはずがなかった。一気に悪くなった、と思った。
実家に戻り、病院に行くことを拒否する父の意志はとりあえず横において救急車を呼んだ。父は担架には乗らず、自分の足で歩いて救急車に乗った。俺は戸締まりなどをすませ病院にむかい、少し休むことになるかもしれない、と会社に連絡した。診察室で待っている間に父のポケットから車のキーを取った。
医師は、父の症状は完全に深刻で、もう長くはないと言った。日が暮れて、母は家から着替えなどの入院セットを運んで病院にとどまり、かわりばんこに泊まろうと決めてから後から来た妹と実家に戻った。その日の深夜に父は死んだ。
夢の中で俺と父は実家の玄関にいた。一緒にどこか買い物に行くみたいだった。母に見送られ歩いてる途中で、新聞を買いにいったときのことを聞こうと思った。思った瞬間にそこからはじまる一連の入院から死までが思い出されて、ああ父はもう死んだ、つまりこれは夢だし、聞いても駄目だなと考えて、ただ父の後ろを歩いた。