その引き金をひいた人を叩いても平和はおとずれない。「製造現場の事故を防ぐ安全工学の考え方と実践」を読んだ。

その引き金をひいた人を叩いても平和はおとずれない。「製造現場の事故を防ぐ安全工学の考え方と実践」を読んだ。

バス事故があって、バス会社が叩かれているのを見て、思うところがあって最近読みなおしました。

たしかオーム社が去年にセールをしていた時に買ったはず。

最後の引き金と、引き金をひいた人だけに注目していてはなにもわからない

わたしは「衝撃の瞬間」や「メーデー」といったような、悲劇的な事故がなぜ起こったかを解説するドキュメンタリーが好きです。

そのような番組で必ず言われることが、「大事故が単一の原因で起こることはほとんどない。いくつかの要因が重なって大事故を引き起こす」ということです。

引き金をひいた原因の原因の原因の……

長野スキーバス転落事故では速度超過があったのではないかと言われています。

また、渋滞回避のためか、予定したルートとちがった道を走っていたそうです。

時間通りの運行のための、現場判断によるなんらかのショートカットが行われたのでしょう。

時間のプレッシャーの中、さらに運転手の技術不足がありました。

プレッシャーによる疲労、疲労による判断力低下、速度超過とそれを吸収できなかった技術不足が事故の直接原因でしょうか。

運転手の技術不足

これは本人の慢心などが原因ではありません。不慣れであるとは乗務以前から明らかであり、そんな運転手を乗せた社の責任です。

採用担当者のみならず同僚も知っていたということなので、社内ではわりと知られた事実であったのではないでしょうか。

そんな中でも、不慣れな運転手を起用せざるを得ない理由が社にもありました。

先のバスの大事故を受けて乗務員を2名、必ず乗せなければならなくなったこと、さらに仕事が思うようにとれない中でさらに、規制範囲を超えた安価で仕事を請け負わざるをえない状況にありました。

運転手を補充しようにも、いわゆるあそびの職員をつくるわけにもいかず、ギリギリで運用しなければならなかった。

こういうのはどんどん遡っていくと人類は死すべしみたいな結論に行きつくしかなくなるんですが、とにかく失敗をしようとして失敗する人はいないし、失敗した人だけが原因になっていることはまずありえないという話がとうとうと語られます。

実例や具体例も語られる

事故の発生に至った理由(本人のルール無視が原因としても、そのルール無視に至った理由)の解説を伴った考察は、本当の安全対策とはなにをすべきなのかというのがよくわかります。

人間はどうしても忘れるということを前提として実際に行われている対策などはそのまま使えます。

事故ゼロは無理

パーフェクトソフトウェアでも「完全なテストはない」と語られていましたが、安全工学においても同じようなことが言われます。

本当に致命的な事故は、もちろん最優先で防止しなくてはいけませんが、事故ゼロを目指すあまり作業者に煩雑な手順が増え、逆に事故の原因になることもありえます。

ただ手順を減らせというわけではなく、手順がある場合はその理由も必ず教育すべきであると語られていました。

 

ひとたび事故が起これば人命にかかわる工業での安全工学をソフトウェアにそのまま使うことはできませんが、事故を起こすのは人間だが、その人間に事故を起こさせる環境がまずあり、そこから改善しないと意味がないという視点は同じだと思いました。

製造現場の事故を防ぐ安全工学の考え方と実践

製造現場の事故を防ぐ安全工学の考え方と実践